過ぎ越しの祭りの三日前、弟子たちが着席し感謝の祈りを捧げていると、
やってきたイエスが声を立てて笑う。
弟子たち 「先生、感謝の祈りを捧げる私たちを笑うのですか?
正しきことを行っていたのですが。」
イエス 「あなた方のことを笑ったのではありません。
あなた方は自らの意思によってではなく、
あなた方の神をたたえるために、祈りを捧げているのです。」
《注:生かされていることに対する感謝は、この世の低位の神に捧げる祈り。
グノーシスの叡智はこの世は低位の神が造ったものと考えている。
イエスは上位の神・世界から使わされた存在》
弟子たち 「先生あなたは・・・・私たちの神の子です。」
イエス 「どうして、あなた方は私をわかっているというのですか?
本当のことを言いますが、いかなる世代でも、
私をわかるという人はいないでしょう。」
弟子たちは怒りを覚えた。
イエス 「なぜあなた方は怒りを感じるのですか?
あなた方の内にいる神・・・完全なる人を取り出して私の眼前に立たせなさい。」
弟子全員 「私にはそれだけの勇気があります。」
口ではそう言いながらも、誰もイエスの前には立とうとしなかった。
そのときユダだけがイエスの前に立った。
しかし彼はイエスの眼をまっすぐに見る勇気は持たなかった。
ユダ 「あなたが誰か、何処から来たのか私は知っています。
あなたは不滅の王国バルベーロー(あらゆるものの神聖なる母である)から来ました。」
「私にはあなたを遣わした方の名前を口にするだけの価値がありません。」
イエス 「来なさい。
いまだかって何人も眼にしたことのない秘密をお前に教えよう。
それは果てしなく広がる永遠の地だ。
そこには天使たちでさえ見たことがなく、あまりにも広大で、目に見えず、
いかなる心の思念によっても理解されず、いかなる名前でも呼ばれたことのない
『み国』がある。」
二人だけになるとイエスはユダにこう告げる。
イエス 「お前はそこ(み国)に達することは出来るが、大いに嘆くことになるだろう。」
ユダ 「そういったことについてあなたはいつ私に教えてくれるのですか?」
イエスは謎のごとく立ち去ってしまう。
翌朝、戻ってきたイエスは弟子たちの前に再び姿を現す。
そしてユダに向かって言う。
イエス 「お前は真の私を包むこの肉体を犠牲とし、
すべての弟子たちを超える存在になるだろう。」
弟子たち 「今この地上の王国には存在しないが、私たちよりすぐれ、神聖なあの世代とは
何を意味しているのですか?」
イエスは笑い出すとその秘密の場所と時に到達するのがいかに難しいか、詳しく語った。
イエス 「死をまぬかれない生まれのものは、そこへはいけない。」
「あなた方が見た、生贄の牛は、あの祭壇の前であなた方に道を誤らせる人々なのです。」
「恥知らずにも、私の名において実らぬ木々を植える人々がいる。」
「あらゆるものの主であり、命じることのできる主が、最後の日にその人々を裁くであろう。」
———中略———
ユダ 「先生あの世代は一体どのような実りをもたらすのですか?」
イエス 「人間の魂はやがて死んでしまうものです。
だが、み国の時を成就した人々の霊魂は彼らから離れます。
肉体は死んでも魂は生き続け、天に上げられるでしょう。」
ユダ 「その他の世代の人々は何をもたらすのですか?」
イエス 「実りを得たければ岩の上に種をまくことはできません。」
時が過ぎ、ユダは自分の見た幻について質問する。
ユダ 「先生、(他の弟子たち)皆の話に耳を傾けるなら、私の話も聞いてください。
とても奇妙な幻を見たのです。」
イエスは再び笑う
イエス 「13番目の聖霊であるお前が、どうしてそんなに躍起になるのですか?
それはそれとして、さあ、話してごらんなさい。
私はお前の話を信じるでしょう。」
ユダ 「あの12人の弟子たちが私に石を投げて(私のことをひどく)虐げるのです。
(大きな家)を見ました・・・。たくさんの人々がそこへ向かって走っていきます。・・。
家の中央には(大勢の)人がいます。
先生、私を連れて行ってあの人々の中に加えてください。」
イエス 「ユダよ、お前の星はお前を道に迷わせてしまった。
死をまぬかれない生まれのものは、お前が見たあの家の中へ入るに値しない。
あそこは聖なる人々のために用意された場所なのだから。」
ユダ 「先生やはり私の種(霊的な部分)は支配者たちの手中にあるというのですか?」
イエス 「来なさい・・・。だが『み国』とその世代の人々を見れば、
お前は深く悲しむことになるでしょう。」
ユダ 「私がそれを知るとどんな良いことがあるのでしょうか?
あなたはあの世代のために、私を特別な存在にしたのですから。」
イエス「お前は13番目(の聖霊)となり、後の世代の非難の的となり
-―そして彼らを支配するだろう。
最後の日には、聖なる世代へと(旅立つ)お前を彼らは罵るだろう。」
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イエスは自分を引き渡し犠牲となるようユダに求めているのだ。
そのわけは徐々に明らかになっていく。
イエスの地上における人としての生は、うわべだけのものに過ぎない。
その人間は内に存在する霊を、覆い隠す衣装のようなものである。
イエスは永遠なる存在であり、より高次の神の一部である。
人間とは異なる偉大な存在であり不滅なのだ・・・・・・・。
イエス 「見なさい、前にも告げたように雲とその中の光、それを囲む星星を見なさい。
みなを導くあの星が、お前の星だ。」
こうしてユダは自分の特別な立場を確信する。
そして重大な瞬間がやってくる。
新約聖書の四福音書の記述にも劣らない、強烈で劇的な瞬間だ。
――ユダは眼を上げると明るく輝く雲を見つめ、その中へと入っていった。――
ユダの福音書を追え:ハーバート・クロスニー著
ユダの福音書:ロドルフ・カッセル他著(日経ナショナルジオグラフィック社)より抜粋
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