乾徳山恵林寺・高橋山放光寺

【臨済宗妙心寺派 乾徳山恵林寺】

01 恵林寺:一つ目の門

 単身赴任先の住まいは山梨県山梨市。近くに寺はないかと探したところ、山梨県内での人気ランキング上位に入る寺があった。乾徳山恵林寺。鎌倉時代に開山された臨済宗妙心寺派の寺院である。武田信玄の菩提寺で信玄の墓があり、また柳沢吉保夫妻もここに眠っている。

 参道の一つ目の門、黒門の扁額に「雑華世界」とある。雑華とは仏教用語でさまざまな花という意味だそうだが、その解釈もさまざまのようだ。雑多なこの世界から静かな空間に足を踏み入れるとするかと考えながら門をくぐり、少し並木道を歩くと今度は朱塗りの門が現れる。四脚門と言って国の重要文化財である。織田信長による焼き討ちの後、徳川家康が再建した当時のものだ。さらにもうひとつ門がある。三門と言い、信長焼き討ちの際に「心頭滅却すれば火も自ずから涼し」と快川和尚が喝破した門である。本堂に至るまでにこのラインナップである。さすが人気ランキング上位の寺だ。

02 恵林寺:四脚門 03 恵林寺:三門

 三つの門をくぐり終えると正面には開山堂がある。ここには恵林寺を開いた夢想国師、心頭滅却の快川和尚、家康に命ぜられ恵林寺を再興した末宗和尚の三像が安置されている。恵林寺の歴史における先発、中継ぎ、抑えといったところか。ちょっと話はずれるが、家康による再興後に寺内修復の面倒を見てきたのが柳沢吉保だ。その縁で吉保夫妻の墓がここにあるのだろう。

04 恵林寺:開山堂 05 恵林寺:開山堂の三像

 大人300円の拝観エリアにはいくつかの見どころがあるが、入ってすぐ目につくのが風林火山と大書された屏風だ。いきなり信玄ムードを盛り上げる。本堂はなかなか見事なもので、石庭もそれなりに整ったものだったが、大半の拝観客はこれらをスルーしていた。寺や仏像に興味を持つ人より歴史好きの人が訪れるスポットなのか。

06 恵林寺:庫裏(拝観入口) 07 恵林寺:風林火山 08 恵林寺:石庭

 やはり拝観客の足が止まるのは、武田信玄の墓、柳沢吉保夫妻の墓、そして武田不動尊。この不動尊は信玄が京都より仏師を招き、対面で彫刻させた不動明王像である。信玄自らの頭髪を焼いて(もしくは塗り込んで)彩色させたという話もあるらしく、かなり情念のこもった像となっている。信玄好きにはたまらないスポットであろう。(残念ながら、この三か所は撮影禁止だった。)

 恵林寺には寺・仏像好きでなくても歴史好きでなくても、訪れる価値のある場所がある。開祖・夢想国師が築いた庭園だ。上段に枯山水、下段に心字池を配した名園とされ、国の名勝指定を受けている。今の時期(10月中旬)でも十分見応えはあるが、花盛りや紅葉の時期に訪れれば、さらに素晴らしさを増した庭園となるのだろう。

09 恵林寺:庭園1 10 恵林寺:庭園2 11 恵林寺:庭園3

 何の期待もせず訪れたのだが、いろいろ盛りだくさんのポイントがあり、結構楽しめる寺であった。京都・奈良や鎌倉に行かなくても、よいお寺というのはたくさんあるのだと今更ながらに思った。

真言宗智山派 高橋山放光寺

12 放光寺:一つ目の門

 恵林寺を訪れた後、時間があったのでもう一ヶ所と思い、恵林寺近くの放光寺に足を向けた。この寺は源平合戦で功績をたてた安田義定が創立した寺院である。始まりは山岳仏教で、そののち天台宗、真言宗醍醐派を経て、明治時代に真言宗智山派となった。

13 放光寺:仁王門

 参道の一つ目の門には扁額に曼荼羅と思われる意匠が施されている。がっちりとした構えが威厳と風格を感じさせる。江戸時代には甲斐国の修験道の中心道場として加持祈祷を盛んに行っていたというのもうなずける。

 次の門は仁王門。阿吽の金剛力士像2体は重要文化財となっている。

14 放光寺:阿形像 15 放光寺:吽形像

像の造立は鎌倉前期と考えられているそうだ。カメラを向けて力士と目が合った時は身震いしそうなほどの迫力だった。一方、力強さを感じるとともに何故だかお洒落っぽさも感じた。よく見ると、衣の裾が風になびいているかのようだ。こういったデザインは珍しく、全国に2件同例があるのみとのことだ。

 三つ目の門をくぐると本堂が現れる。本堂の他、庫裡、愛染堂などがあり、それらが拝観コース(大人300円)になっている。この寺には重要文化財となっている大日如来像、天弓愛染明王像、不動明王像がある。三体とも12世紀の作とされ、大日如来像と天弓愛染明王像は京都の円派系の仏師により造立されたものと考えられている。三体の像はいずれも目にして一瞬息が止まるような、静かであるのに迫力も感じさせるものだ。特に天弓愛染明王像はその手に持つ矢に射られてしまうような錯覚を覚えた。この像は天弓愛染明王像としては日本最古の仏像とされている。(残念ながら三体は撮影禁止だった。)

 

16 放光寺:三つ目の門 17 放光寺:本堂

これらの他、朱塗りの愛染明王像、安田義定毘沙門天像がある。義定は仏像マニアかフィギュア好きかと思わせるほどだが、甲斐国に京都や奥州平泉の平安文化をと考えて多くの仏像を勧請したそうだ。工房も持っていたとされている。仏像が好きな人にはお勧めの寺と言えるだろう。

18 放光寺:愛染明王像

 

 こちらの寺は七福神めぐりのひとつであるらしく、かわいらしい大黒天像もある。また、ぼけ封じの落書き地蔵なるものもあり、迫力ある仏像を見続けた後に和やかな気分にさせてくれる。ほんのついでに立ち寄った寺だったが、とても気に入ってしまった。

20 放光寺:大黒天 19 放光寺:安田義定毘沙門天像 21 放光寺:落書き地蔵


 

【所在地】

恵林寺  山梨県甲州市塩山小屋敷2280

放光寺  山梨県甲州市塩山藤木2438

シルエット作成者:中原ミラクルズ








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